味覚障害とは、食べ物や飲み物の本来の味(甘味、苦味、うま味、酸味、塩味など)に対する感度が低下したり、味を感じにくくなったりするなどの症状全般を指します。何を食べても不味く感じたり、何も口にしていなくても苦みや塩味を感じたりする味覚異常など、その症状もさまざまで個人差があります。
味覚の低下は、単に食事の楽しみが奪われるだけでなく、食欲が低下してしまい食事量が少なくなったり、味が感じにくくなることで食事内容に偏りが生じやすく、栄養素にも偏りが出てしまう可能性が考えられます。その他、濃い味付けが多くなることで塩分量が増加し、高血圧や脳梗塞などのリスクにつながってしまうかもしれません。
舌の表面には、食べ物の味を受け取る「味細胞(みさいぼう)」と呼ばれる細胞がたくさん存在しています。その味細胞が複数集まり、花のつぼみのような形をしているのが「味蕾(みらい)」です。味蕾の数は、年齢、栄養状態などによって異なりますが、成人で約7,500個といわれています。そして、味蕾1個の細胞につき、味細胞は数十~数百個存在しています。
食べ物の味をキャッチするのは味細胞です。味細胞の先には「微絨毛」というセンサーのようなものがあり、唾液に溶け込んだ味の成分をとらえます。そして、味の情報は味細胞で電気信号に変えられ、神経を通って脳へと伝わることで、甘い・苦いといった味を感じています。
味細胞は新陳代謝が活発で、約10日の短いサイクルで新しい細胞へと生まれ変わっています。そのため、嗅覚や聴覚に比べると、加齢による味覚低下は少ない傾向にあります。しかし、年齢と共に味蕾の数は減少するため、味覚の感度が低下しやすくなります。高齢者が濃い味付けを好む傾向にあるのも、このことが関係していると考えられています。
味細胞は常に新しい細胞に生まれ変わっているにも関わらず、なぜ味覚障害が起こってしまうのでしょうか。ここからは、味覚障害の原因と対処法についてみていきましょう。
味覚障害には様々な原因がありますが、その中で多くを占めるのが「亜鉛不足」です。亜鉛は、味細胞の新陳代謝に大きく関わっており、体内で不足すると味細胞の再生がスムーズに行われなくなるため、味覚障害を引き起こす原因になります。また、ストレスや生活習慣の乱れ、早食いなどによる唾液量の減少も、味を感じにくくなったり、舌に違和感が生じる原因になったりします。その他にも、次のようなさまざまな原因によって味覚障害を引き起こされると考えられています。
水が苦い、泥を食べているような味がする、金属のような味がする。など
〈対処法〉
・強く感じる味の調味料や素材は使わずに、他の味付けにしてみる。
・化学調味料(だし)を使用せず、天然のだしを利用する。 など
何を飲んでも甘ったるい、野菜ジュースがしょっぱい。など
〈対処法〉
・甘みを強く感じる場合は、砂糖やみりん、ジャムなどの甘味料を控え、甘みの代わりに塩や醤油、みそ味を少しだけ強くする。
・塩味を強く感じる場合は、塩や醤油、みその代わりに、酢やレモンなどの酸味だしなどのうま味を活かす。 など
味がほとんどしない、紙を食べているみたい。など
〈対処法〉
・料理の温度を人肌程度にする(36~37℃)。
・グルタミン酸を多く含む海藻や野菜、チーズと、イノシン酸を多く含む肉や魚を組み合わせたり、鰹節と昆布の合わせだしを使用するなど、食材の組み合わせを工夫し食材のうま味を最大限に引き出す。 など
風邪を引いて鼻がつまったときに「味がわからなくなる」という経験をされた方もいらっしゃると思いますが、それはどうしてなのでしょうか?私たち人間は、香りを2つのルートで感じ取っているといわれています。まず、1つめが鼻から入り鼻腔で香りを感じるルート(オルソネーザル)で、もう1つが食べ物を飲み込む際に、のどから鼻に抜けるルート(レトロネーザル)です。
例えば、食事をした時においしいと感じたり、風味が良いと感じるのは、のどから鼻に抜けるレトロネーザルのルートが大きく影響しています。このように、食事を香りと共に楽しむことができるのは人間のみです。その他、味の判断は約80%がこのレトロネーザルによる香りが元となっており、舌で味わっているのはわずか20%程度ともいわれています。
そして、舌で感じることができる味は限られており、「甘味、苦味、うま味、酸味、塩味」が基本の五味の他、辛味や渋味など刺激やしびれなど感覚的な味を含めると7種類だといわれています。さらに、味の要素だけでなく嗅覚、視覚、聴覚情報などを総合的に判断して、味を表現することができます。中でも、味を表現する上で大きな判断材料となるのが「嗅覚」です。
つまり、鼻がつまっているときは何を食べても味を感じないのではなく、嗅覚が働かずに「味」しか感知できず、判断ができなくなっていると考えられます。
味覚障害の大きな原因の一つである亜鉛不足にならないためには、食事からきちんと亜鉛を摂取することが大切です。しかし、亜鉛の吸収率は約30%とあまり高くないため、吸収率を高める工夫が重要となります。亜鉛の吸収を促す栄養素として、ビタミンCやクエン酸があります。レモンなどの柑橘類には、ビタミンCとクエン酸を含むため、亜鉛を多く含む生牡蠣にレモンをかけるという食べ方は理にかなっているのです。その他、亜鉛は水に溶けやすい性質があるため汁物やスープにすることで余すところなく摂取ができます。
一方で、食物繊維、豆類などに含まれるフィチン酸、加工食品に使われる添加物のリンは亜鉛の吸収を妨げる要因となるため、過剰摂取には注意が必要です。
栄養素 | 作用 | 主な食材 |
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亜鉛 | 味覚機能を維持する | 牡蠣、ホタテ、牛肉、レバー、納豆、卵、種実類 など |
ビタミンC | 亜鉛の吸収を促す | カボチャ、ホウレン草、ピーマン、ブロッコリー、じゃがいも 果物(いちご、キウイ、レモン、グレープフルーツなど) など |
●お酒はほどほどに
亜鉛はさまざまな代謝に関わっており、アルコールの分解にも関係があります。お酒を多量に飲むことで、アルコールを分解する際に亜鉛がたくさん消費されてしまいます。飲酒は適量を心がけましょう♪
●過激なダイエットは控えましょう
過度な食事制限などによって、食事の偏りや量そのものが少なくなると、必然的に亜鉛の摂取量も少なくなってしまいます。亜鉛は、体内で作ることのできない栄養素であるため、食事のバランスを意識し、食べたエネルギー量よりも消費エネルギー量を増やすために適度な運動を心がけましょう♪
亜鉛を豊富に含むホタテとビタミンCを含むブロッコリーを使った味覚障害を予防するおすすめレシピをご紹介します♪
ホタテとブロッコリーは、どちらも11~3月が旬です。
ホタテは、タンパク質が豊富で、脂質が少なく、味覚障害を予防する亜鉛だけでなく、イライラを抑えるカルシウム、貧血を予防する鉄分、高血圧を予防するカリウムなど、さまざまな栄養成分が含まれています。
さらに、ブロッコリーは亜鉛の吸収を高めるビタミンCが豊富に含まれます。一般的に、加熱に弱いビタミンですが、ブロッコリーに含まれるビタミンCは加熱に強いといわれています。
材料(2~3人分) | 分量 |
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ほたて(生、ゆで、どちらでもOK) | 150g |
ブロッコリー | 1/2株 |
たまねぎ | 1/2個 |
しめじ | 1/2袋 |
マッシュルームスライス | 30~40g |
しめじ | 1/2個 |
オリーブ油 | 大さじ2 |
おろしにんにく | 小さじ1/2 |
牛乳 | 300㏄ |
塩麹 | 大さじ1 |
こしょう | 少々 |
米粉(または片栗粉) | 大さじ2~3 |
ピザ用チーズ | お好みの量 |
パン粉 | 少々 |