チョコレートやポテトチップスなどのお菓子、パンなどの加工食品のパッケージの裏側には、原材料名が記載されています。そこに「植物油脂」と書かれているのを目にしたことはありませんか?今回はこの「植物油脂」とはいったい何なのか、一緒に探究していきましょう!
「油脂」とは、一般的に動植物由来のあぶらのことで、常温で液体の「油」と、常温で固体の「脂肪(脂)」を合わせたものの総称です。
「植物油脂」は、植物の実や種から採取された油脂全般を指します。
原材料名に「植物油脂」と記載できるものは、下記の油です。明確な規定はありませんが、メーカーなどの通念上、常温で液体の油については「植物油」と記載されることも多くあります。また、農林水産大臣が制定する「JAS規格」では、食用のものについては「食用植物油脂」と呼びます。
食用サフラワー油 | 食用ぶどう油 | 食用大豆油 |
食用ひまわり油 | 食用とうもろこし油 | 食用綿実油 |
食用ごま油 | 食用なたね油 | 食用こめ油 |
食用落花生油 | 食用オリーブ油 | 食用パーム油 |
食用パームオレイン | 食用パームステアリン | 食用パーム核油 |
食用やし油 | 食用調合油(2種類以上の植物油脂を混ぜたもの) | 香味食用油(ラー油など) |
つまり、植物油脂という総称で記載することが出来るため、実際にどの油を使用しているかは食品表示を見ただけでは分からないのが現状です。
しかし、メーカーによっては自主的に表示していることもあり、その場合は「植物油脂(米油)」などと表記されています。また、複数の油が使用されている場合には、使用重量の割合の多いものから左順に「植物油脂(米油、大豆油、パーム油)」と表記されます。さらに、植物油脂全体に対し、占める割合が5%未満であれば「その他」と記載することができるため、「植物油脂(米油、大豆油、その他)」と表記される場合もあります。
日本国内における植物油脂の供給量をみると、なたね油、パーム油、大豆油などが上位を占めるため、加工食品に多く使用されている油もこれらの油だと考えられます。
トランス脂肪酸は、植物油、植物油脂と検索したら必ず出てくるキーワードですが、正しく説明できる人は少ないかと思います。そこで、脂肪酸とは何かから簡単に説明します。
脂肪酸は、脂質の主な構成要素で、脂肪酸が他のさまざまな物質と結びつくことで脂質を形成しています。脂肪酸は、炭素(C)と水素(H)、酸素(O)の原子で構成されていて、炭素が鎖状につながった一方の端に、カルボキシル基(-COOH)がついたものです。
炭素の数や炭素と炭素のつながり方によってさまざまな種類がありますが、構造の違いによって、大きく「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」に分けることができます。
飽和脂肪酸は、脂肪酸の構造の中で炭素と炭素の二重結合が全くないもののことで、融点が高く、酸化しにくいという特徴があります。飽和脂肪酸は、中性脂肪やコレステロールの原料なので、摂り過ぎると血液中の中性脂肪やコレステロールが増えて動脈硬化が促進され、心筋梗塞などを引き起こします。飽和脂肪酸が多く含まれる食品は、牛肉や豚肉の脂、バターなどが挙げられます。
不飽和脂肪酸は、脂肪酸の構造の中で炭素と炭素の二重結合があるものを指し、融点が低く、酸化しやすいという特徴があります。一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸のn-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸に分類され、悪玉(LDL)コレステロールを低下させる効果があります。不飽和脂肪酸が多く含まれる食品は、オリーブ油、ごま油、亜麻仁油などが挙げられます。
●●●飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸についてもっと知りたい方はこちら●●●
トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の1つです。水素原子が炭素と炭素の二重結合をはさんで反対側についているものをトランス型と呼び、人工的に加工・精製する過程でできるものと天然にできるものがあります。トランス脂肪酸の多くが人工的につくられるもので、主に2つの過程で発生します。
1つは、マーガリンやショートニングをつくる際、植物油を固体にするため、部分的に水素添加する(不飽和脂肪酸の炭素同士の二重結合を減らして飽和脂肪酸を増やす)のですが、その過程で一部がトランス脂肪酸に変化します。
もう1つは、植物から油をしぼる際に、より多くの油をしぼり出すため原料に石油系溶剤を加える抽出法を用いることです。抽出法では溶剤のツンとした匂いが残ってしまうため、高温で処理して脱臭するのですが、その際にトランス脂肪酸が発生します。いわゆるサラダ油などの安価な油がこれにあたります。
ちなみに、天然にできるものは、牛や羊など反すう(一度食べたものを再び口の中に戻して、ふたたび咀嚼(そしゃく)する)動物の肉や乳製品に含まれるのですが、とてもわずかな量なので健康への害はほぼ無いと考えられています。
トランス脂肪酸を過剰に摂り過ぎると、悪玉(LDL)コレステロールが増えて、善玉(HDL)コレステロールが減るため、心筋梗塞などの冠動脈性心疾患のリスクが高くなるといわれています。
トランス脂肪酸を含む食品には、マーガリンやファットスプレッド、ショートニングが挙げられ、それらを使用してつくられたクッキーやケーキなどの洋菓子、パンにも含まれています。また、揚げ物も、使う油によってはトランス脂肪酸が含まれているため、特に外食や中食では注意が必要です。ちなみに、マヨネーズやドレッシングも原料となる植物油にトランス脂肪酸が含まれていることが多いので、使い過ぎないようにしましょう。
近年、企業努力により、市販されているマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸の量はとても少なくなっています。具体的には、上記の部分的水素添加という技術を使わずにつくることで、トランス脂肪酸が少なめとも言われるバターより、含有量を減らせた商品がたくさんあります。「トランス脂肪酸低減」や、「部分的水素添加油脂不使用」などと書かれていますので、パッケージやメーカーのホームページなどで確認しましょう。
トランス脂肪酸を含まない食品は、せんべいなどの和菓子やミックスナッツで、製造過程で油が使われていないものが安心です。また、植物油のなかでも圧搾法という昔ながらの製法でしぼられた油は、トランス脂肪酸を含みません。例えば、エキストラバージンオリーブオイルや、焙煎ごま油などです。さらにこだわりたい方は、低温圧搾法の油がよりおすすめです。ちなみに、和食や中華料理は、洋食に比べてトランス脂肪酸の量が少なめです。
WHO(世界保健機関)は、トランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満(平均的な日本人で約2g未満)」にするよう勧告しています。そして、内閣府食品安全委員会によると、日本人の大多数が、WHOの勧告基準であるエネルギー比の1%未満であり、健康への影響を評価できるレベルを下回っていることから、通常の食生活では健康への影響は小さいと考えられるそうです。
ちなみに、日本人の摂取量の平均値は0.666 g/日(エネルギー比 0.31%)でした。そのため、トランス脂肪酸について過剰に心配する必要はないかと思います。しかし、クッキーやケーキなどの洋菓子、ファストフードや揚げ物をよく食べる人は要注意です。
また、世界的にトランス脂肪酸の量は減らせているものの、代わりに飽和脂肪酸の量が多くなっているという問題があり、近年、日本人も脂質の摂り過ぎが指摘されています。日本人の食事摂取基準(2020年版)では、18歳以上の男女の飽和脂肪酸の摂取目標量を総摂取エネルギーの7%相当以下としています。しかし、2019年の国民健康・栄養調査の結果から計算したところ、20歳以上の日本人の飽和脂肪酸の平均摂取量は、総摂取エネルギーの8.4%相当でした。トランス脂肪酸の含有量が少ないとして注目されるようになった「パーム油」も、飽和脂肪酸を多く含むため、摂り過ぎると血中コレステロールが増加し心臓病のリスクになることが分かっています。
そのため、トランス脂肪酸か、飽和脂肪酸か、ではなく、脂質全体の摂り過ぎに注意する必要があります。栄養バランスの良い食事を取り、お菓子の食べ過ぎにも気をつけましょう。
いずれにしても消費者には少しわかりづらい表記となっているため、消費者側もしっかりと知識を持った上で食品の選択をしていく必要があります。美味しい物であふれている時代ですが、自分自身の健康のために、油の摂り過ぎには十分注意しましょう!
* * * * *