前回の記事【お茶の発酵とそれぞれの特徴~奥深いお茶の世界②~】ではお茶の発酵について、発酵度の違いによる4種類のお茶の特徴を紹介しました。
今回は、日本人に一番親しみがある不発酵茶について詳しく紹介しましょう。
不発酵茶とは、茶摘み後、茶葉内の成分の変化を防ぐために、最初に蒸すか、炒るなどの熱処理をして茶葉の発酵を止めてから(酸化酵素の不活性化)加工するお茶のことを言います。
いわゆる緑茶がこれに相当し、茶葉が緑色を保っているのは、茶摘み後すぐに発酵を止めることで酸化しないようにしているためです。緑茶のきれいな緑は、この工程のおかげなんですね。
熱処理によって茶葉の発酵を止めるため、もともと茶葉が持つ成分を変化させずに摂ることができます。抗酸化作用の高いポリフェノールであるカテキン(渋み成分)をはじめ、テアニン(うまみ成分)や、ビタミンC、ミネラルなどを豊富に含んでいます。
アミノ酸の一種であるテアニンは、お茶の葉特有の成分でリラックス効果があります。緑茶にはカフェインが含まれていますが、テアニンの興奮抑制作用により、カフェインの働きをマイルドにしてくれます。
製法は大きく分けて蒸し製と釜炒り製がありますが、さらに栽培の工程で、日光を遮断しないでつくる露地栽培と、よしずなどで茶樹を覆い、日光を遮って栽培するものに分類されます。
それぞれの栽培方法や製法の違いなど特徴をまとめておきましょう。
はじめに、緑茶の中で最もよく飲まれている煎茶からお伝えします。
日光を遮らずに栽培
日光を遮らずに栽培(露地栽培)し、新芽を摘み取り、蒸熱→粗揉→揉捻→中揉→精揉→乾燥の工程でつくられます。これが一般的なお茶のつくり方です。
茎茶や棒茶、粉茶などもこれに含まれます。
煎茶は、流通量の85%を占めるため、緑茶の中でも一番馴染みのあるお茶だと言えます。遮光しないでつくるので、光合成によってカテキン(渋み成分)の量が多くなり、甘味・渋み・爽やかさのバランスがいいのが特徴です。
深蒸し煎茶は、通常の煎茶とつくる工程は同じですが、蒸し(蒸熱)の時間を2~3倍長くしてつくられています。蒸し時間が長いため一般的に香りは弱めですが、濃厚な味わいが特徴です。
新芽が伸びて硬くなった葉や茎などを原料として、煎茶と同様に製茶したお茶です。夏の強い日差しを浴びているため、渋み成分を比較的多く含むのが特徴です。
番茶の定義は地域によって異なることが多く、はっきりしていないのですが、主流ではない、”番外”のお茶と言う意味で、そう呼ばれるようです。
また、摘採(てきさい)の時期が外れていたり、品質が落ちていたりするものを番茶と呼ぶ地域や、ほうじ茶のことを番茶と呼ぶ地域もあるそうです。
煎茶などと同じく、蒸気で蒸す(蒸熱)ことで発酵を止め、その後、粗揉、揉捻、中揉、仕上再乾、乾燥という工程でつくられます。
煎茶の最後の工程の「精揉(せいじゅう)」を行わないため、勾玉のような丸みを帯びた形状で仕上げられています。
佐賀や長崎、鹿児島や宮崎の一部の地域で生産されていますが、国内での生産量は少ないです。
お店などでは、下記の釜炒り製玉緑茶と合わせて「グリ」「グリ茶」などとも呼ばれていますので、これなら耳にしたことがある方も多いと思います。
日光を遮断して栽培
日光を遮断して栽培し、摘採(てきさい)後は煎茶と同じ工程でつくられます。お茶の木と、遮光用の藁や寒冷紗の間に空間をつくる棚掛けという方法で遮光します。
玉露は、緑茶の王様とも言われ、最高級のお茶として知られています。味・香り・色のすべてが非常に高い評価を受けています。
日光を遮断することにより、茶葉は柔らかく、葉緑素も増加します。さらに、お茶のうまみ成分であるテアニンが渋み成分であるカテキンに変化することを防ぐため、玉露は旨味が強く渋みが少ないお茶になります。
三大産地は、八女(福岡)・宇治(京都)・岡部(静岡)です。
玉露と似ていて、日光を遮断して栽培し、摘採後は煎茶と同じ工程でつくられますが、遮光方法に違いがあります。お茶の木に直接寒冷紗などを掛ける直掛けで、光を遮ります。
産地により異なりますが、遮光の期間は玉露より短めの2週間程度が多いようです。イメージ的には、玉露と煎茶の中間に位置しているお茶です。
日光を遮り光合成を行わせないことで、テアニン(うまみ成分)が、カテキン(渋み成分)へ変化するのを阻害します。これによって、煎茶よりも苦みが少なく甘味や旨味の強い大変まろやかなお茶になります。
玉露と同じく、棚掛けで遮光して栽培した葉を蒸してつくられますが、違いは、揉まずにひたすら乾燥させることと、玉露より5日ほど長く棚掛けして遮光することです。
碾茶とは抹茶の原料で、碾茶を石臼で挽くなどして粉末状にしたものが抹茶と呼ばれています。
抹茶は、茶葉ごといただくことになるので、その効果も他のお茶より大きいと考えられています。
釜炒り茶とは、摘採した茶葉を釜で炒ることで発酵を止めたお茶です。
これは、中国式の煎茶の製造方法で、蒸して揉む工程が発明されるまでに主流だった方法です。
採取してすぐ茶葉を釜で炒った後、揉捻、水乾、締め炒り、乾燥という工程でつくります。
日本では、九州の一部(佐賀など)でしか生産されていない珍しいお茶です。
お茶の製造工程で出てくる副産物や、他の物を混ぜてできる不発酵茶も紹介しておきます。
一般的に番茶を焙煎(焙じた)したお茶のことをいいます。
焙煎によって、カテキンが壊れ、お茶独特の苦みや渋みが抜けます。また、茶葉を炒ることで香ばしい香りが加わり、口当たりがよくなります。さらに加熱により一部のカフェインが気化するため、胃の負担が減り、お子さんや高齢者など多くの方が安心して飲めるのが特徴です。食後のお茶としてもなじみのある方が多いと思います。
番茶などの緑茶に炒った玄米を混ぜたお茶です。炒った玄米が香ばしく香りがよいのが特徴です。
煎茶の製造工程でできる粉末を粉茶と呼び、ティーバッグの原料や、緑茶サーバーなどでも利用されています。
煎茶の製造工程で葉から外された茎を利用してつくるお茶です。茎茶を炒ったものが棒茶と呼ばれ、値段は安いのですが、テアニンが多くうまみが強いのが特徴です。
以上、緑茶に代表される、日本人に馴染み深い不発酵茶を、製法の違いや特徴ごとに説明しました。
今まで漠然としていたお茶の違いが、少しわかるようになったのではないでしょうか。
次回は、半発酵茶について紹介します。