近年、脂質は「量」だけでなく「質」を重視することが重要だといわれています。
皆さんは、普段の生活の中で脂質の質を考え、食材を選んでいますか?
今回は、テレビや雑誌などでも頻繁に取り上げられているn-3系(オメガ3)脂肪酸など、脂肪酸の種類とその違いについて詳しくご紹介いたします!
脂肪酸とは炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、3つの原子が鎖状に繋がって構成されています。その構造の違いから、食品に含まれる脂肪酸は「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2つに分けられます。ここで用いられている「飽和」「不飽和」とは、どういう違いなのでしょうか。その答えを知るために脂肪酸の構造を詳しく見ていきましょう!
飽和脂肪酸とは、炭素(C)分子間に二重結合がない脂肪酸のことを指します。下記の図は、飽和脂肪酸であるステアリン酸の構造です。見てわかる通り、二重結合がありません。二重結合がないことによって、物質が飽和状態であり安定しています。そのため、融点(溶け始める温度)が高くなり常温でも“固体=脂(fat)”を維持できます。その他、飽和脂肪酸はパルミチン酸やラウリン酸などがあります。
例)ステアリン酸
※構造式の左端の炭素(C)のことを、「n末端」と呼びます。
〈多く含む食品〉
・肉の脂や乳製品など動物性の脂肪
・ココナッツ油、やし油 など
不飽和脂肪酸とは、炭素(C)分子間に二重結合がある脂肪酸のことを指します。二重結合があることによって物質の状態は不安定です。そのため、融点が低くなり常温では“液体=油(oil)”となります。その他、飽和脂肪酸より酸化しやすいという特徴があります。
不飽和脂肪酸は、「一価不飽和脂肪酸」と「多価不飽和脂肪酸」に分類することができます。それぞれの特徴を見ていきましょう。
不飽和脂肪酸のうち炭素(C)間の二重結合が一つのものを「一価不飽和脂肪酸」といいます。一価不飽和脂肪酸は炭素(C)間の二重結合がn端末より9番目にあるためn-9系(オメガ9)脂肪酸と呼ばれることもあります。下記の図は一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸の構造です。
例)オレイン酸
〈多く含む食品〉
・オリーブ油、ひまわり油、サフラワー油など
・アーモンド、マカダミアナッツ、牛肉など
不飽和脂肪酸のうち炭素(C)間の二重結合が2つ以上あるものを「多価不飽和脂肪酸」といいます。さらに、多価不飽和脂肪酸の中でも炭素(C)間の二重結合の位置によって「n-3系(オメガ3)脂肪酸」、「n-6系(オメガ6)脂肪酸」に分類されます。
●n-3系(オメガ3)脂肪酸
n-3系(オメガ3)脂肪酸は、n末端から数えて3番目の炭素(C)間に最初の二重結合があります。このようにn端末から何番目に最初の二重結合が存在しているかで名前が付けられているのです。下記の図は、n-3系(オメガ3)脂肪酸であるα-リノレン酸の構造です。n-3系(オメガ3)は他にも、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などがあります。
例)α-リノレン酸
※構造式の左端の炭素(C)のことを、「n末端」と呼びます。
〈多く含む食材〉
・サバ、イワシなどの青魚
・アマニ油 など
●n-6系(オメガ6)脂肪酸
n-6系(オメガ6)脂肪酸はn末端から数えて6番目の炭素(C)間に最初の二重結合があります。下記の図は、n-6系(オメガ6)脂肪酸であるリノール酸の構造です。その他、n-6系(オメガ6)脂肪酸にはアラキドン酸などがあります。
例)リノール酸
※構造式の左端の炭素(C)のことを、「n末端」と呼びます。
〈多く含む食品〉
・大豆油、コーン油、サフラワー油 など
・卵黄、豚レバー など
重要なエネルギー源になります。また、ホルモンや細胞膜、コレステロールの原料となるため、必要不可欠な栄養素です。ところが、中性脂肪やコレステロールの原料であることから、取り過ぎると 中性脂肪やコレステロールの合成が進み、血中脂質を増やしてしまいます。動脈硬化を促進させ、心筋梗塞の原因につながります。また、飽和脂肪酸は体内で合成ができるため過剰摂取に注意が必要です。
不飽和脂肪酸の働きは種類によって異なります。
●n-3系(オメガ3)脂肪酸:DHA・EPA
血中コレステロールの低下作用があります。さらに、心疾患や脳卒中、糖尿病など生活習慣病予防の効果が報告されています。
DHA→n-3系(オメガ3)脂肪酸の中で唯一、脳に取り込むことができ、脳の活性化に関わると言われています。そのため、脳機能維持に重要な役割を担い、記憶や学習能力、集中力向上だけでなく、認知機能改善効果が期待されています。子供も大人にとっても一生涯大切な栄養素ですので積極的に摂取していきましょう。
EPA→心筋梗塞や虚血性心疾患の原因となる血栓生成の予防効果があり、リスク低減につながると言われています。その他、うつ病の予防や緩和にも期待されています。
これらの脂肪酸は、体内で合成することが難しいため、食品から摂取する必要があります。熱に弱く酸化しやすいためDHAやEPAを多く含む青魚類は、加熱よりも刺身など生で食べることがおすすめです。その際は、保存方法に注意し、衛生管理には注意しましょう。
●n-6系(オメガ6)脂肪酸
血中コレステロールを下げる効果や、動脈硬化の予防効果などが期待されています。その他、認知機能の改善も期待されています。
マグロなどの赤身魚や、タラなどの白身魚に比べて、サバやサンマなどの青魚に含有量が多く効率よく摂取できます。
魚類は調理に手間がかかるため、既に加工されているサバ缶など手軽に使える商品を取り入れてみましょう。
非加熱調理が好ましいとされているため、ドレッシングや飲み物に混ぜるなどして効率よく摂取してみましょう。
では、n-3系(オメガ3)脂肪酸はどのくらい摂取するのが良いのでしょうか?
2020年版 日本食事摂取基準では、n-3系(オメガ3)脂肪酸の目安量が設定されています。
〈男性の場合〉30~49歳で2.0g/日、50~74歳で2.2g/日、75歳以上で2.1g/日
〈女性の場合〉30~64歳で1.9g/日、65~74歳で2.0g/日、75歳以上で1.8g/日
n-3系(オメガ3)脂肪酸は、サバ1切れ(80g)で1.2g、イワシ1尾(65g)で2.0gが摂取できると言われています。食事に魚類を意識して取り入れると、効率よく摂取することができます。
n-3系(オメガ3)脂肪酸は、健康な体のためには欠かせない栄養素ですが、脂肪(油)分であることに変わりはないため過剰摂取は禁物です。上限はありませんが、1日の目安量を守って摂取するようにしましょう。サプリメントを服用している方は、1日の摂取推奨量をしっかり守り、過剰摂取に注意しましょう。
このように同じ脂肪酸であっても、構造が少し異なることで体内での働きは大きく変わります。それぞれの性質を理解した上で選択することが重要です!大切なことは毎日の食事にバランスよく取り入れることです。
ぜひ、日々の食事にn-3系(オメガ3)脂肪酸を取り入れてみましょう!