「桜味」の正体は?

「桜味」の正体は?

徐々に暖かくなり、季節は春。桜が咲きほこると、ほっこりとした優しい気持ちになりますね。この時期、続々と登場するのが「桜味」のお菓子や飲み物などです。今回は、桜味について深掘りします。そもそも桜味とは、いったい何なのでしょうか。

桜餅

桜味の正体

桜味の正体は、「クマリン」という桜の葉に多く含まれる香り成分です。しかし、お花見をしていても、桜の葉を摘んで香りを嗅いでも、特に「桜味」に近いような香りはしませんよね。

クマリンは、植物が生きている状態では「クマリン配糖体」という、クマリンと糖が結合した状態で存在するため、香りを発することはないのです。桜の葉を塩漬けにしたり乾燥させたりすると、クマリン配糖体を含む桜の葉の細胞が壊されて、クマリン配糖体が分解されます。クマリンは、そうしてはじめて独特の香りを放つことができます。

クマリン

クマリンの香りと味

クマリンの香りは、バニラにも似た甘さのある香りが特徴で、いわゆる「桜もちの香り」です。クマリンは、パセリやアシタバ、柑橘類にも含まれていて、シナモンの香りを構成する香り成分でもあります。ちなみにクマリン自体に、味(あじ)はありません

少し難しくなりますが、人間は鼻からのどまでの構造がとても特殊で、鼻で嗅ぐことで香りを感じるオルソネーザル経路ではなく、レトロネーザル経路という別の経路で香りを感じることが得意です。これは、食べ物を口に入れたときに、食べ物の香りがのどを通って鼻に抜けることで香りを感じるしくみです。そのため、味覚と嗅覚が相互に作用しやすく、実際には甘い香りのみで味がしなくても、甘い味がするような感覚になるのです。

クマリンの作用

クマリンは、抗酸化物質であるポリフェノールの成分なので、抗酸化作用があります。そのほか、抗菌効果、抗血液凝固作用などを持ち、血栓防止薬などにも利用されています。

しかし、クマリンは長期にわたって過剰に摂取すると肝障害を起こす可能性があるため、継続的に多く摂取することは避けましょう。また、肝臓に疾患がある人や抗血栓薬を飲んでいる人、妊娠している人は、クマリンの含まれているサプリメントといった大量摂取のリスクのある食品は控えましょう。

もちろん、桜もちなどの桜味のお菓子を食べる程度であれば、心配はいりません。

食用の桜もソメイヨシノ?

桜といえばソメイヨシノをイメージされる方が多いのではないでしょうか。

しかし、食用の桜には、ソメイヨシノはあまり用いられていません。ソメイヨシノの葉は、クマリンが出にくいとされており、また、花びらも一重で花色が薄いため、食用にはあまり向かないのだそうです。そのため、桜もちには「大島桜(オオシマザクラ)」という種類の桜の葉が主に使用されます。オオシマザクラの葉はクマリンが比較的生成されやすく、桜の香りを放ちやすいとされるためです。

また、桜の花をお茶に浮かべたりトッピングに使ったりするなど飾りに用いる場合は、見た目の良さから、「関山(カンザン/セキヤマ)」や「普賢象(フゲンゾウ)」といった八重桜の花を選ぶことが多いようです。

桜味を楽しもう

桜味の正体が分かったところで、次は桜味を手軽に楽しむ方法をご紹介します。

ひとつは、桜茶です。結納などのお祝いの席で出される飲み物で、あらかじめ塩抜きした桜の塩漬けを、湯呑に入れて上からお湯を注いだら完成です。塩抜きは、塩を振り落とすか軽く洗う程度で大丈夫です。また、お湯ではなく、緑茶やほうじ茶、ジャスミン茶を注いでも美味しいですよ。

もうひとつは、桜のおにぎりです。こちらも、あらかじめ塩抜きした桜の塩漬けを使います。軸を切り落とした桜の塩漬けを刻んで、ご飯と混ぜ合わせたら、お好みの大きさに握ります。枝豆かグリーンピースを一緒に混ぜると綺麗に仕上がりますよ。

ここまで、桜の豆知識をご紹介しましたが、いかがでしたか?

桜味が、味ではなく香りだったことに驚いた方も多いかもしれませんね。信じられないという人は、鼻をつまんで、桜もちを食べてみるといいかもしれません(ちょっともったいない気もしますが…)。

目で楽しむだけでなく、口いっぱいに春を届けてくれる桜に感謝です。

 

桜の木
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特定非営利活動法人 日本成人病予防協会
全国各地で様々な対象者の方向けの講演会を行ったり、執筆活動を行うなど精力的に活躍する当協会の健康管理士、管理栄養士が担当しております。
それぞれ得意の分野を活かし、今知りたい「食や健康」をお届け!
毎月の食Doのテーマや、食Do執筆の裏側を公開する「裏食Do!」(アメブロ)Instagramなどもぜひお楽しみに!!
監修:日本成人病予防協会 会長 医学博士 片野 善夫          

       
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