前の回では感染型食中毒対策についてお話ししましたが、今回はもうひとつの毒素性食中毒対策についてお話しします。みなさんがよく知っているあの菌も…。
食中毒の原因となるのは、細菌によるもの、ウイルスによるもの、自然毒によるもの、化学物質によって起こるものなどにわかれ、細菌によるものには、感染型と毒素型があることをお話ししました。
感染型食中毒は、細菌に感染した食品を食べることで、体内でその細菌がさらに増殖しますが、一方で毒素型食中毒は、細菌が食品の中で毒素を産生し、その食品を食べることで起こる食中毒です。
毒素型食中毒の代表的な菌には、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ボツリヌス菌などがあります。
黄色ブドウ球菌は、食中毒菌の中でも最もポピュラーな菌のうちの1つです。
食中毒を引き起こす菌としてよく知られていますが、実は私たちの手指や鼻にも常に存在している身近な菌です。
特に、けがをして化膿している部分や、鼻水にも多く存在します。
潜伏期間は1時間から6時間と発症まで早く、激しい悪心、嘔吐などがみられます。
食中毒の原因となるのは、菌そのものではありません。
黄色ブドウ球菌が食品中で増殖するときに産生する“エンテロトキシン”と呼ばれる毒素が原因となるのです。エンテロトキシンは、胃酸のような強い酸にも負けません。
さらに、熱にも強く、100℃で30分間加熱しても壊れません。
また、菌自体も熱や乾燥に強く、食塩濃度がある程度高くても生きていけるという特徴を持っています。
弁当やおにぎり、サンドイッチなど、素手で調理するものは注意が必要です。調理前には手を洗う、ビニールの調理用手袋を使用するなど、食品になるべく菌を付けないようにしましょう。
セレウス菌は土壌細菌の一種で、土や空気、水など自然界に広く存在している菌です。昔から腐敗菌として知られています。
潜伏期間が1時間から6時間と発症までが早い嘔吐型と6時間から16時間の潜伏期間の下痢型に分かれます。
嘔吐型ではチャーハンやピラフ、スパゲッティなどのでんぷん製品が、下痢型では肉類、プリンなどが原因食品になります。
セレウス菌はウエルシュ菌と同じく“芽胞”と呼ばれる硬い殻に閉じこもります。そのため、通常の加熱調理では死滅せず、乾燥した環境でも長く生きることができます。
セレウス菌は加熱調理後にも、一部の菌が生き残って増殖するので、調理済みの食品はなるべく早く食べてしまうということが大切です。
調理後すぐに食べない場合は室温放置せず、低温保存することが重要です。
ボツリヌス菌は、酸素濃度が低い条件下でよく育つ、嫌気性菌です。海、湖、川などの泥砂中に存在している菌で、この菌も芽胞を作ります。
この菌は、古代ギリシャ・ローマ時代からソーセージ(腸詰め)を食べることで起こる中毒菌として知られていました。
ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素は、自然界の毒素の中では最強の毒であるとも言われており、毒素が産生された食品を食べると12~36時間で、嘔吐や視力障害、言語障害などの神経症状が現れます。
ひどくなると、呼吸麻痺により死亡してしまいます。
缶詰やレトルトパウチなどの保存食、はちみつが原因となりやすく、特に自家製の保存食には注意が必要です。
保存食を作る場合は、新鮮な原材料を用いることや、低温で保存することが重要です。